宵闇の光
同時に他の連中──特に年数の浅い奴らから見ると、団長に対するのとはまた違う意味で、アディと普通に話せている自分たちが特殊に映ることも理解している。新入りが最初のうちは近づくことすらためらうほど、他の人間には分厚い壁を感じさせているのだから。
能力を持つ故に意識的に人を寄せ付けない、その近寄り難さはこの十数年の間、変わらないままでいた。だが最近は、壁自体がなくなったとまでは言えないが、隙間が垣間見えるような時もある。
時期から考えて間違いなく、あの女兵士とのことが影響しているのだろう。変化自体は喜ばしいと言っても良いにせよ、同時に不安もあったのは、彼が女に関係することで面倒な状況に陥りはしないかと考えたからだった。
女の素性や経緯も知らないうちからそんな危惧を感じてしまうほど、指輪を見つめるアディの目つきには尋常でない真剣さがあった。
……さすがに、ここまでの事態に至るとは思っていなかったのだが。思わず、気になる一言を口走ってしまう。
「だいたい、おまえが子供の父親かどうかなんてこと分から──悪い」
鋭く睨まれて、謝らざるを得ない。アディには知る術があることを一瞬忘れてしまっていた。少なくとも、あの女が身ごもっているのを認識していて、且つ相手をアディだと考えていたなら、確かにそれはあの時に分かったのだろう。
だが先程の目には、それに留まらない主張が含まれているように見えた。たとえ事実が違ったとしても、彼女はそんな女ではないと信じ、そう言うに違いない。
今さらながら、重症なのだと思った。アディは心底から本気でいる。
当の女自身について、どうこう述べるつもりはない。なにせ直接には一言も口をきいていない、赤の他人だ。あの女兵士については、アディから断片的に聞いた事柄しか知らない。
とはいえ、外見は今も強く印象に残っている。月明かりだけの中でも……だからこそ余計にかも知れないが、現実かどうか疑うほどの美貌だった。顔色が青白く、生気が乏しく感じられたこともそう見えた一因であっただろう。
アディが女の容貌だけに惹かれたとは思わない。最初に彼女を印象強く感じた理由がそれだったとしても、ここまで本気になったのには違う要素があるだろう。
断片的な話の中でも、その大体の予測はついた。それ故に、女兵士の子供の父親がアディか否か以前に、どうしても気にかかることがある。
「確かに、気の毒な女だとは思うけどな」
アディの心境を考えると躊躇は感じたが、一度は言っておくべきだろうと、思い切って口を開いた。
「おまえもそう思ってるんだろう。──同情の延長なんじゃないのか」
同じように肉親の縁が薄い境遇に、共感と同情を感じるのは分かる。他に人のいない森の中、二人きりで過ごすうちに、その感情を曲解していないとは言い切れないのではないか。
アディは視線を外し、目を伏せた。やはり彼自身も、そう思う一面がなくはないのだと思った。