宵闇の光
周囲の騒がしさが気にならないほど、ラグニードは相手に集中して次の反応を待つ。長い沈黙の後、ようやくアディは答えを返した。
「だとしても、このまま放っておけない」
絞り出すような声だった。
「少なくとも、彼女が今危ないのは俺のせいだから……たぶん、あの時誰かに見られてたんだろう。でなかったらそんな濡れ衣を着せられるはずがない。──そんな理由で彼女を死なせたら、俺は一生自分が許せなくなる」
目を逸らしたままそう言ったアディは、この上なく悲痛な表情をしていた。普段、笑うことも少ない代わりに、辛さや痛みなどを顔に表すこともほとんどない彼が。
そんな痛々しい顔をされてはもはや、静止も拒絶もできない。断る方が罪にさえ思えてしまう。
「分かった。乗りかかった船だ、協力する」
仕方ないなと諦める気持ちとともに、ラグニードは心を決めた。少なからず驚いた顔でこちらを見たアディが、少しの間を置いて「済まない」と言い、頭を下げるのを制しながら、話の先を続ける。
「──で、次はどうする?」
深夜、王宮の最奥近くにある一室。
代々の国王がごく内々に執務を行なう目的で作られた部屋には、まだ明かりが灯されていた。室内にいる人物は三人──四十前後の男と部屋付きの王宮侍女、そして部屋の現在の主。
「……あと、その件につきましては、あらためてまた明日お話させて頂きますので」
「分かりました」
「では、本日はここまでと致しましょう。お疲れ様でございます。 おやすみなさいませ、陛下」
「おやすみなさい」
男が部屋を出ていき、今夜は下がっていいと促された侍女も姿を消す。部屋の主である若き女王──エイミア・ライは、扉が閉まった瞬間にふうと息をつく。今日もようやく、一人になれる時間が来た。
正確には、今も一人きりではないことは承知している。続き部屋に控える護衛は絶えず耳をそばだてていて、こちらに異変が何か起こればすぐに飛び込んでくるだろう。先程下がらせた侍女も十中八九、同じように廊下に控えているはずだ。
本当の意味で一人になれる時は、おそらくは今後一生、来ることはないのだろう。