宵闇の光
専任者の指導と努力によって、普段は意識しない限り何も視ずに済むようになったが、時折は今も、飛び込んでくる未来が視えることがある。専任者曰く、能力が強い場合に起こり得ることであり、そればかりは制御のしようがないのだと。
三年前もそうだった。父が体調を崩し、誰もが風邪だと思っていた当初の時点から、エイミア・ライはそれがいずれ父を死に導く病だと知っていた。
だから、それまでになく強情に、父を説得したのだ。自分を神殿に行かせてくれるようにと。遠からず保護を得られなくなるなら、早いうちにそこから抜け出して別の保護を求めるべきだと考えた。だが口に出しては「慣例として神殿に行くべき」で押し通した。
本当の理由は隠し続けたため、父はなかなか納得してはくれなかったが、最終的には許してくれた。
神殿での日々は実質的な隔離生活であり、王宮で自室に閉じこもりがちだった時よりもさらに退屈ではあったが、少なくとも穏やかな日々だった。一生そうやって過ごしていくのだと、そうすべきなのだと思っていた。
しかし現実には、たった三年足らずで王宮に戻ってきている──すでに父は亡くなり、兄は首都の外れの古い塔に幽閉され、ここにはいない。そして残された自分は、今や女王陛下と呼ばれる身である。
父が亡くなったと知らされた夜、身を隠していた屋敷が襲撃された。誰もが兄王子一派の差し金と思い、実際にそうだったことは後に判明した。
間一髪で屋敷を抜け出し、次の潜伏先にいるうちに、兄が捕らわれたと聞かされた。そのすぐ後に、父が生前預けていたという書状を手に、王家の遠縁に当たる地方貴族の訪れを受けた。父に、自分が亡くなったら書状を持って王宮を訪れるように言われていたと、彼は語った。
間違いなく父の筆跡と印章が認められたその書状には、自分亡き後は王子と王女の合議により後継者を定めよと書かれていた──但し不当な手段により一方を害しようとした者は、即座に全ての権利を失うとも。……床に伏して以降、説得に応じない娘に何とか王としての権限を与えるため、父が考えた最終手段がこれだったのか。
結果的に、兄は王子の身分を剥奪され、残ったのはエイミア・ライが女王となる道のみだった。王位に就きたいと望んだことは一度もなかった自分が。
おそらく、兄も同じだっただろう。少なくとも、記憶にある昔のままの彼なら。
二人きりの兄妹とはいえ、子供の頃ですらあまり兄と会う機会はなかった。嫡子と庶子の立場の違いを、周りの者が必要以上に意識していたためだ。
兄自身がどう思っていたか分からないが、会った時はいつも親切にしてくれた。能力発現後ですら、冷たい人だと感じたことは一度もなかった。……もっとも、ここ数年で彼と顔を合わせた回数は片手の指で足りるほどで、会話に至っては皆無に等しかったが。
優秀ではあるがそれ故に少々我が儘だと、人には思われていた兄──確かにそういう一面もあった。故に、成人しても一向に指名されないことを恨みに思っていた結果の王女襲撃だったと、世間では言われているらしい。