宵闇の光
だが最初から、エイミア・ライにはそうは思えなかった。彼は、むしろ王にはならずに気ままに生きたいと願うような、そんな人だったはずなのだ。
どうして、こんな事態に至ってしまったのだろうか。信じられない気持ちと、手がかりを見つけたい思いとで、王宮に戻ってきてすぐ、兄に会わせてもらった──数年前に会った時とは全く正反対のやつれた姿に、かける言葉が見つからなかった。
そんな自分に代わり、尋問は同行したファラガン将軍が行なった。彼は、混乱拡大を避けるため前将軍ヒューグスが唱えた軍不介入の方針に背き、身を潜めたエイミア・ライの護衛を軍の中で密かに手配した人物である。
数年ぶりに顔を合わせた兄は、拘束されている部屋に入ってきた妹をちらりと一度だけ見上げ、それきり目を合わせようとはしなかった。尋ねられるままに、自らがエイミア・ライを排除する計画に加担していたことを認め、刑に服すると言った。釈明や命乞いの言葉は、一切口にしなかった。
その時、彼が、本当に言った通りの気持ちでいるのは分かった。だがそれ以上は……何を思って、妹を排除してまで王位を望んだのかは、どれだけ意識を集中させても視えなかった。
兄は、もしかしたら周囲に流されただけだったかも知れない。短い尋問の後は完全に口を閉ざし、目を伏せた横顔を見ていて、そんなふうに思った──同時に、おそらくは数十年後の、彼が視えた。誰もいない暗く狭い部屋で、同じ姿勢で座っている、老いた姿が。
その後、側近となった貴族たちが促すままに兄の支持者だった人々の処分は行なっても、兄自身を処刑することには抵抗し続けた。甘いと言われようとも、殺したくはなかった。
彼は今やただ一人の血縁でもあるのだ──父や母の近しい身内は、彼らよりも先に亡くなっている。二度と会うことがなくとも……その方が彼には辛いことであったとしても、生きていてほしかった。
それが自分の我が儘に過ぎないことも、充分に分かっていながら。
どちらかがもっと強ければ、あるいは逆に貪欲だったら、もっと昔に決着の着いていることだっただろう。自分の弱さが情けなく、あっても何の役にも立たない能力が厭わしかった。兄を形だけ生かすこと以外、何もできない無力さが──
その時聞こえた、扉を開け閉めする音が、物思いから意識を引き戻した。続き部屋、護衛がいる居間の方だ──先程の側近か、もしくは別の、急な訪問者かと思った。
……だが、耳を澄ませても何も聞こえてこない。誰かしら来たのなら話し声がするはずである。
あまりの静けさが気になり、様子を見に行きかけたのと、扉が開いたのはほぼ同時だった。
入ってきたのは長身の男が一人で、服装は乱れていないにもかかわらず、わずかに荒れた空気を漂わせている。王宮内の人間なら明らかに持たない雰囲気に、エイミア・ライは意識せず数歩後ずさった。