宵闇の光
説明を行なった軍幹部の口調は、疑いを差し挟む余地を感じないほど明確だった。その上、代々軍の重鎮の家出身であり、当人も父親と同じく将軍になるのが確実な優秀な軍人と紹介されていたため、その時点で相手を疑う理由は何もなかったのである。
だが、その軍幹部の家──イルゼ侯爵家が、女兵士に対して個人的な恨みを抱く理由があると知った今は当然、聞かされた説明は逆に信用できない心境になっている。当主が溺愛する末子失踪の原因が、彼女にあると思い込んでいるのだろう。
フィリカ・メイヴィルという名の女兵士は、確かにその件に無関係ではなかった。だが根本的には、末子本人の逆恨みでしかない。偽証の罪は問われるかも知れないが、少なくとも、現在かけられている「王子派との内通」容疑は、全くの濡れ衣なのだ。
だから、この人は助けに来た……おそらくは彼との子供を宿している彼女を。あの夜、彼が見逃してくれたのは、互いに「分身」である共感と同時に、エイミア・ライを守る任務に女兵士が就いていたからだ。
もし彼に対する恩がなかったとしても、無実の、しかも身ごもっている女性が投獄されていると分かっては、一刻も早く救わなければならない。決意とともに顔を上げる。
「分かりました、私にできることは何でもします」
迷いなくエイミア・ライは言った。その言葉に、彼は身体を離して数歩下がり、胸の前で右手を握った。
無言で膝をつき、深々と頭を下げる──それは、女王に対する、最上級の感謝と敬服の礼だった。
首が横へと倒れかけた拍子に、目が覚めた。また居眠りをしていたらしい。
一体、何日経っただろうか? 最初のうちは食事の回数で数えていたが、毎回口にしなくなってからは分からなくなってきている。外の光が入らない地下では、今が昼か夜かさえ定かではなかった。
フィリカは牢の石壁に凭れ直し、肩と背中で姿勢を立て直す。そうすることで、あらためて石壁の冷たさを感じ、なるべく眠り込まない努力を続けている。……身柄を拘束されたあの日からずっと。
絶対に、寝台で眠る気にはなれなかった。
捕らえられてからの数日は、任務違反ということで軍施設内の懲罰房に入れられていた。尋問は当然されたが、ほとんどは否定した。「屋敷に侵入した者の雇い主」を聞かれても、本当に知らないことだから答えようがない。
「侵入者を引き入れた手口」についても、初めから引き入れたりしてはいないと真実を言ったのだが、「侵入者との面識」について否定を貫くことはできなかった。