宵闇の光
アディと遭遇した時の一連のやり取りを、見ていた者がいたのである。目撃者として現れたのは、国境警備から戻って以来こちらを監視していた人物の一人だった──ウォルグの親、イルゼ卿が手配した者に違いなかった。
監視には当初から気づいていたが、彼らが望む証拠が出るはずもなかったから、努めて気づいていないふりで無視していた。身体の変調を自覚してからは、そもそも気にする余裕さえありはしなかった。
油断していたと言えばそれまでだが、まさかあの時、極秘であったはずの任務にまで潜り込んでいるとは思わなかったのも確かである。実際、呼び出され命令を受けた際、集まった人々の中には混ざっていなかったのだ。
一連の出来事に関する証言は非常に正確だった。見間違いとの反論はするだけ無駄と判断し、事実については認めざるを得なかったが、目撃者言うところの「淫らな行いに及んでいた」わけではないことははっきりと否定した。遠目にはそう見え、誤解される可能性があったことを認めた上で。
だが後半の供述はしてもしなくても変わりなかったようだった。侵入者を見知っていたことだけで、上はフィリカを襲撃計画とも無関係とは見なさなくなったからである。
やり取りの直前、アディとの打ち合いは都合良く見られていなかったのか、またはそれすらも偽装だと受け取られているのか……それについては、監視者も上官もフィリカの目の前では言及しなかったので不明なままだ。
代わりに分かったのは、最初に倒した三人が、他の警備兵があの場へ行った時点では姿を消していたことだった。フィリカが侵入者を阻もうとした証拠は、何も残っていなかったわけである。
侵入者が一人も捕らえられず、全員逃げたと判断されたことが、内通者の存在をより確かに感じさせる結果となったらしかった。
襲撃が王子派の一部によるものだったと判明して間もなく、この地下牢に移された。王宮の最下層にあるここには、窓は当然一つもない。湿気で絶えずじめじめしている上、季節は初夏であるにもかかわらず、時々妙に冷え込む。
政治犯などの重罪人が入れられる牢だと、噂には聞いたことがある。だが当然、自分が入ることなどは一度も予想もしなかった。──ここに入れられたということはつまり、すでに容疑は確定事項として扱われ、政治犯の烙印を押されたということだ。
身内が健在でなくて良かった、と思う。誰か一人でも生きていたら、言い訳のしようもなく心労だけを与えることになっていた。……いや、もう生きていなくても、申し訳ないとはやはり感じる。
理由はどうあれ、一生懸命育ててくれた彼らの思いを裏切ってしまったのは確かだ。自分自身では後悔していないとはいえ、その意味では間違いなく、これまでの行動は軽はずみだった。そんなふうに育てたつもりはないと言われても仕方のないほど。