宵闇の光
今日は同僚の中でレシーが最後であったため、使っていた執務室の鍵を管理室に戻しに寄る。詰めていた当直兵と短く挨拶を交わし、宿舎へ戻る道へと足を向けた。
明日も早い時間から取りかからねばならない仕事がある。さっさと部屋に戻って休むべきなのだが、急ぐべき足は途中で止まってしまった。
本館と、宿舎を繋ぐ通路。窓の向こうには、逆光の月明かりの中、王宮が黒く浮かび上がって見える──その建物の地下に今もいるフィリカのことを、ここを通るたび、考えずにはいられなかった。
彼女に最後に会ったのは、もう十日近く前のことになる。投獄後、おそらく半月ほどが経過していたその頃ですでに、一目で分かるほどに痩せ細っていた。まともに食事をしていないのは明らかだった。
あれから、さらにどれだけ痩せてしまっただろうかと思うと気が気でなかった。ただでさえ彼女は、普通の身体ではないのに。
……一月近く前、フィリカが極秘の任務に選抜されたことを知ったのは、彼女が実際に任地へ行ってしまった翌日だった。
どこへ、何の目的で行かされたのか、あちこちで聞いて歩いても手がかりさえつかめなかった。彼女が特に選ばれたということは、その実力が本当に必要な任務、つまりは大きな危険の伴う内容に違いなく、それ故に不安が募った。
任務が何だったのか判明したのはさらに数日後、王女暗殺未遂で王子本人を含む何人かが拘束された後のこと。その中にフィリカがいると聞き、耳を疑った。
彼女が王子派と内通していたなどとは当然、最初から信じはしなかった。そんなことをする女ではないし、理由もありはしないのだから。
だが、警備兵だったフィリカが、王女が潜む屋敷に侵入した者と何かしらのやり取りしていたのは間違いなく目撃されたのだという──確実な情報を聞き込んできた、と自信満々だった某同僚の話では、「侵入者に情報だけでなく、身体も売っていた」とまで言われていたのだ。あり得ないという思いが強まるばかりで、レシーは混乱した。
一体、彼女は何に巻き込まれたのか?
使える人脈を最大限に利用し、噂を聞いて三日目にはフィリカとの面会を実現させた。彼女の口から真実を聞けば、容疑が全くの冤罪であり、投獄が不当だと、釈放を申請できるだけの理由を手に入れられると思った……のだったが。
レシーの予想に反して、フィリカは自身の無実を全く訴えなかった。それどころか、容疑の一部を認めるようなことさえ口にした。
まともな釈明を聞けないまま、最初の面会は時間切れになった。到底納得ができず、以降はほぼ毎日面会を申請し、ともかく辛抱強く問い正した。
答えの多くは彼女らしからぬあやふやな、要領を得ない内容だった。だがそれでも、得た答えを繋ぎ合わせた結果、彼女は嵌められたのだという結論に達した。
目撃者が例の、イルゼ家の手の者だったというのが、いかにも怪しい。何があったにせよ、そいつのでっちあげか見間違いに決まっていると思った。