宵闇の光
その決心を後悔したことは一度もない。自分が持つ力を、拾ってくれた彼のために使うのは当然のことだからだ。傭兵として誰より優秀であることも、アディにとっては目標以前の、全てに優先する義務だった。努力の甲斐あって、構成員中で三本の指に入る腕と認められるようになり、上辺では知り得ないことをある程度は知るだけの能力制御も可能になった。
前者に関してはボロムにも満足してもらえているようだが、後者については決してそうではない、むしろ不安を感じさせていると分かっている。意識して使える場合もあるとは一度も話していないが、彼が何も気づいていないはずはなかった。だから、アディがあの手の「報告」をするたび、あんなふうに尋ねてくるのだ。
それぞれの理由でコルゼラウデの「特異性」に詳しいボロム、及び彼の古い知人である薬師の女は、アディの能力を知っても恐れず、当然の事柄として正面から受け止めた。
幼い頃、能力故に実の親からも気味悪がられた自分だ。事情にある程度通じていても、それだけで単純に受け入れられる事柄とは思えない。つまり彼ら自身の性質や、経験の成せる業なのだろう。
……だからこそ、彼らが気がかりに思う理由も心情も納得できる。本気で心配されているのが、それ自体は有難いことなのだと分かっている。だが能力を全く使わずにいるのは、実際には不可能だった。
当然だが無節操に用いたりはせず、普段は逆に、他人との接触を可能な限り避けているほどである。出会う人間全ての記憶や感情──圧倒的に愉快とは言えない内容が多い──を視ていては気力が保たないからだ。しかし勝手に伝わってくる場合は防ぎようがない。さらに意識して視ようと試みるのは、無意識の時より消耗が激しいことも確かだった。
そうと分かっていてなお、仕事に関わる状況においては、自ら能力を使うことは止め難かった。自分のためでなく、ボロムや集団のためだと思っているからだ。
十九年前に拾われて以降、ボロムの役に立つこと──そうだと思うことは全て行なうのが、アディにとっては生きる意味と言っていいほどの重要性を持っている。そのためならいくら消耗しようと……例え寿命が縮んでも構わないとさえ思うほどに。
珍しく思考に沈みかけていた瞬間、前方の三人の姿が人混みに一瞬紛れる。すぐに見つけはしたが、その時にはすでに、四人の男に半ば囲まれるような状態になっていた。
絡まれているらしいと判断すると同時に、アディは躊躇せず走り出した。何人かにぶつかりながら駆け寄った時、先にこちらを見たのは四人組の方だった。身長の差はあるが揃って体格が良く、柄が良いとは思えない面々である。
背丈は平均程度の、くすんだ金髪の男が上目遣いに睨んできた。
「なんだ、てめえは」
その声に、若様を含めた三人も振り返る。お守り役の青年はアディを見ていくらか不安を和らげたようだが、他の二人はこの状況においても、相変わらず不快そうに眉を寄せただけだった。