宵闇の光
二人に、人垣まで下がるようにと早口で指示し、そうしたかどうかは確認せずに走り出した。
喉元に剣先を突きつけられていた護衛役の襟首をつかんで放り投げるようにその場から遠ざけ、無言で男に対峙する。
その時点で剣を抜いていないアディの姿に、男は鼻でせせら笑った。笑いを浮かべたまま剣を振り上げようとした腕を、アディは素早く押さえ込む。
手が添えられているだけに見える自分の腕が全く動かせないことに気づいて、男は初めて驚いたようだった。直後、鳩尾に一撃をくらい、金髪の男は呻きとともに倒れ込む。
他の三人が笑いを消し、にわかに色めき立った。
汚れた上着の男が自分の武器に手をかけたのを認めると同時に、金髪の男が落とした剣を拾い上げていたアディは、その手目がけて剣を一振りする。手の甲、指の付け根を横切った傷から血が噴き出し、男は大仰なほどの叫びを上げた。
残る二人のうち一人に目を向けようとした時、右後方から妙な気配が伝わってきた。そちらを振り向くと、四人の中で最も小柄で若い男が、細い筒のようなものを口に当て、先をこちらに向けている。筒の形状と男の行動からそれが何かに思い当たった瞬間、飛んできたものが右腕に刺さるのを感じた。
服の上から食い込んでいたものをすぐさま抜き取る。先が鋭く尖った、木製の吹き矢だった。
抜いて間もなく、右腕に痺れを覚えた。続いて他の手足、そして頭までに麻痺するような感覚が徐々に回ってくる。激烈な効能ではないが相当に回りの速い薬物らしい。足元が若干ふらつき、手に力をこめるのが難しくなるには充分だった。
怪我を負った二人までもが、アディの様子を目にして再びにやりと唇を歪める。この程度で倒れたりはしないが、集中力が途切れがちになりつつあるのも事実だった。かなり手早く片付けてしまわなければ逆に不利になるが、それが可能かどうか……
その時にわかに、後方の人垣の一角から大きな声が上がった。続いて、こちらに走ってくる足音が聞こえる。
人の気配が風のように傍をすり抜けたと思った直後、吹き矢筒の男が地面に突っ伏した。後ろに回った人物に首を打たれて気絶したのだと分かった。
現れた人物の早業に、残った三人が動揺の色を再度あらわにする。慌てて各々の武器を構え直した男たちだが、相手はほとんど攻撃の機会を与えることなく、全員を戦闘不能にしてのけた。しかも、うち二人は素手で、自分の剣を抜いたのは、胸に突き立てようと剣を繰り出してきた金髪の男に対してのみであった。
剣を弾かれた男が、こめかみを強く打たれて昏倒する。それを確認して、今度はアディの方へと相手は早足で近づいてきた。すでに膝をついていたこちらに合わせて姿勢を低くし、顔を覗きこんでくる。