宵闇の光

 この国の軍服を着ているということは、軍所属の兵士なのだろう。まだ若く、せいぜい二十歳そこそこに見える。……その顔から、アディは目を離すことができないでいた。
 現れた時から思ってはいたが、距離があっても目を見張るほどの、美貌の持ち主であった。こうして間近で見ると、顔立ち自体はむしろ儚げなのに、瞳がそれを補って余りあるほどの強さを帯びていることが分かる。
 何より惹き付けられるのはその瞳の色だった──夜の色に変わる直前の空のような、濃く深い青。
 長く見つめていると、その深さに囚われる心地にさえなりそうだと思った。そんなことまで考えた自分に、アディは心中首を傾げる。容貌の美醜自体は人並みに判別できても、美しいからと興味を覚えたことなどは今までほとんどないのに。
 「大丈夫ですか」
 とかけられた声に、かなり本気で驚愕した。目の前の人物以外に、そうやって尋ねてくるような人間は近くにいない。思わず、まじまじと相手を見つめ直した。
 姿勢を考慮しても、それなりに背丈はあると思われる。少なくとも四人組の、一番小柄な男よりは高かった。そして非常に細かった。無駄なゆとりはないはずの軍服でも服地が余って見えるほどで、体型は一見では分からない。
 だが……先程耳にした澄んだ声は、どう考えても女のものだった。男だと思い込んでいたわけではなかったが、潔いほどの短髪故に女という可能性も頭に浮かんでいなかったので、ひどく意外に感じた。
 ずいぶん不躾であっただろう視線を、相手──女兵士は慣れているのか、格別に気にした様子はなかった。こちらの顔色を確かめるようにしばらく見つめ、怪我はどこかと聞いてきた。
 右腕だと答えると、彼女は手早くアディの袖をまくり上げた。見つけた傷に、ためらいなく口を近づける。ぎょっとしたあまりにアディが動けないでいる間に、傷口から吸い出した血を、懐から出した布に吐き出すことを繰り返す。
 それを丁寧に畳んで再び上着の内側に納めると、別の布でアディの傷口を縛った。布の端を結ぶ彼女の指の動きを、無意識に目で追っていたことに後から気づく。
 まくった袖を元に戻してから、女兵士はアディの左側に移動した。え、と思う間もなく、彼女は自らの首にアディの左腕を回し、右肩で担ぎ上げるように立ち上がらせた。まだ残っている野次馬や、いつの間にか駆けつけていた他の兵士たち──おそらくは彼女同様、祭りの巡回警備担当だろう──から、少なからぬ驚きの声が上がる。
 当然、アディも再三驚いた。それなりに長身とは言っても見るからに細身で、そもそも、女である。
 しかし彼女は、自分より背丈も幅も、当然体重もある男を、こちらから見れば細すぎる肩で、さほど苦もない様子で支えていた。信じられない思いで言葉がしばらく出せなかったが、
 「ち、ちょっと待ってくれ。一人で歩けるから」
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