宵闇の光
【4】再会

 コルゼラウデの「神の分身」たる能力者は、人口の割合では、国民約六千人に対して一人というところである。彼らのほとんどは、幼いうちに首都カラゼスにある神殿に入り、そこで生涯を過ごす。能力の発現年齢が五・六歳頃に集中しているためだ。
 宗教的な存在として一応は認められていても、彼らが普通の人々の中で暮らすのはやはり難しいのである──本人はもちろん、周囲の人々にとっても。
 能力者を幼いうちに神殿に集めるのは、能力の制御を学ばせると同時に、彼らを隔離する目的もあるのだった。「神の分身」が自ら死を選ぶことのないよう導くといった宗教的観点が、一つ目の理由。
 そして二つ目は、彼らの能力が故意に利用されないためという、倫理的な面もなくはないが、どちらかと言えば政治的な理由。能力者の存在自体は隠していないから、他国、あるいは国内の一個人一集団が良からぬ思惑を持ち、彼らの能力を不穏な目的に用いることを考えないとも限らない。それを防ぐための隔離政策でもあった。
 しかし何事にも例外は付きもので、十歳を越えてから能力が発現する場合も稀にある。現国王の娘である王女、エイミア・ライもそうだった。
 彼女は亡き王妃が遺したただ一人の嫡子である。婚姻後十年を過ぎてようやく生まれた娘で、さらに王女が二歳になる前に王妃は亡くなったため、国王ライゼス・レネは王女を溺愛した。
 エイミア・ライがごく普通に成長すれば、多少の反発はあったにしても、彼女への王位継承はそれほど困難ではないはずだった。コルザ時代、そしてコルゼラウデ成立後にも女王即位例はあったからだ。
 だが十一歳を迎える直前に突然、王女に能力の発現が見られた──「視聴《みき》き」の力は弱かったが、未来を知る「先読み」の力が強く現れた。
 これまでにも「分身」として生まれる王族は少なからず存在した。しかし王女にはその時まで兆候が全くなかったため、彼女は「普通」なのだと誰もが考えていた矢先だった。
 すぐにも神殿に入るべきであるにもかかわらず、国王はその後も数年、王女を手元に置き続けた。能力制御を学ばせるため、逆に神殿から専任者を呼び寄せてまで。その選択は周囲に波紋を投げかけた。
 彼女が一人娘だったなら、もしくは王子であったなら、いくらかは穏やかに納得されたかも知れないが、現実には違った。
 王女の兄に当たる、王子が存在したからである。
 ユリス・ルー王子はその名が示す通り庶出の生まれだ。嫡子には父王──時には父王子──の、庶子には母妃の名前の一部を取って付けるという慣習が王族にはある。王子の母、十年ほど前に亡くなった側妃の名はルーデシアといった。
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