宵闇の光
それらを考え合わせて行き着いた推測によって、顔に血が上るのをフィリカは感じた。無意識に口元に手をやる。
……相手が、下心があってそうしたと思うわけではない。自分でも少々意外なことに、会うのも二度目でしかない彼の言葉を──余計なことはしないと言った時の真摯な表情を、疑う気は全く起きなかった。
しかし、どうしても身の置き所がない気分になってしまうのは、また別の問題である。そのことを想像しただけで、勝手に頬が熱くなってくる。
……じきに彼が戻ってくるという状況が、それを望んでいながらも、妙に落ち着かなく感じられて仕方なかった。
幸い、近くに水の湧いている岩の窪みがあった。水袋を満たして足早に洞窟へと戻る。
中に入った途端、振り向いた彼女と目が合った。その瞬間、彼女の顔がうっすらと赤くなったのをアディは見逃さなかった。ごくさりげなく逸らした目が、一瞬ひどくうろたえたように揺れたことも。
──おそらく、眠っている間にアディが何をしたのか、推測したのだろうと結論づけた。同時に何とも後ろめたい思いが胸の内に広がる。目的にやましい部分はなかったが、結果的に、感情もそうだったと胸を張って言えはしなかったから。
しかしそんなことを口に出してわざわざ墓穴を掘るほど、馬鹿正直にもなれない。だから昨夜のことについては一言も触れないことにする。もし向こうから尋ねてきたら、弁解は一切せず素直に謝るつもりでいるが。
少なからず緊張しながら近づき、水袋を渡す。彼女はやや目を伏せたまま受け取って、すみませんと囁きに近い声で言った。そして水袋を手にした姿勢のまま、静止する。
後に続く言葉が何かあるような気がして、アディはその場から動かずに待った。しばらくの後、思いきったように顔を上げた彼女の口から出た言葉は、予想に反したものだった。
「あの、……名前は」
意外なあまり、何を言われたのか理解するまでにしばし時間を要した。沈黙してしまっている自分に気づき、我に返る。
「あ──ああ名前か。……えーと」
口を開いた途端、いつもの、もはや習慣的な躊躇が頭をもたげた。しかし今さら名乗らないわけにもいかない。アディは息を吸い込んだ。
「俺は、アドラスフィン」
言った瞬間、相手が思わずというふうに目を丸くする。さんざん接してきた反応であり、無理はないと思った。
親に捨てられボロムに拾われた後、彼にもらった名前だ。生まれた時に付けられた名も当然あったのだが、両親を思い出したくなくて彼らを忘れようとしているうちに、名前も忘れてしまった。