宵闇の光

 アディが間近にいることで緊張しているにもかかわらず、同時に、奇妙な安心感も覚えている自分がいる。彼が男であることを意識しないわけではないのだが、どういうわけか、不思議な近しさも感じていた。
 こうやって並んで毛布にくるまった当初は、途切れがちながらもしばらく会話していた。そして何かの拍子で、互いのことを、表面的な内容のみではあるが語る流れになった──年齢や、今に至るまでのごく簡単な経緯を。その会話から、アディが五つほど年上で孤児であり、所属する傭兵団の団長に拾われたことがきっかけで傭兵になったのだと知った。
 団長と彼が呼ぶ人物を、父親のように慕っていることは、やはり口調ですぐに分かった。本当の親を知らなくても同様に思える対象が存在して、且つその人々が今も健在であることに、心の片隅で羨望を感じる。だが感じる傍から打ち消した。
 父とロズリーを亡くした時から、どんな意味であれ大事に思う相手は、もう作らないと決めたのだ。
 ──誰にも心を傾けずにいることが、寂しくないと言えば嘘になる。だが、家族と同様かそれ以上に大切と思える誰かを、何らかの理由で失う時のことを考えると、その方が何倍も辛くて怖かった。
 いずれは失ってしまうのなら、最初から誰にも関心を持たず、好意を持つ可能性を排除しておく方が良いと、本気で思っているのだ。
 ──二度と、置き去りにはされたくないから。
 アディのことが必要以上に気になるのは、きっと今の状況が大きく影響しているのだろう。危なかったところを助けられて、ひどく気を遣われているから。そして彼がそうするのはフィリカが怪我人で、女であるからだ。理屈や差別以前に、男と女は根本的に違う、だから気遣って当然だと彼が考えているのは、表情を見ていればなんとなく分かる。
 ……だから、期待してはいけない。
 全く意識せずにそう考えてから、はっとした。
 何に対して期待するというのか。そんなものは最初からあるはずがない──自分が何を考えているのか、だんだん理解できなくなりつつある。
 例えば、こうして隣り合っていることで感じる温かさを、できるだけ長く保っていたいと思うのも、今だけの感情でしかないはずだ。
 そうでなければおかしい。
 だが、そんなふうに変にむきになっている今の自分は本当におかしいのかも知れない、とも一方では思えてしまう。冷静に分析しようとすればするほどかえって頭が混乱してきて、ひどく思考が覚束ない感じになる。熱のせいもあるのかも知れない。
 気持ちを落ち着けたくて、フィリカは首から下げている自身の護符──ロズリーから渡された母の形見を、服の上からそっと握りしめる。ここ数日、自分に戸惑うたびに繰り返しそうしてきたように。
 心の奥で何か変化が起こっていることは分かっても、それが何なのかはまるで把握も想像もできずにいた──こんな感情は初めてだったから。
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