宵闇の光
事情を知らない他の仲間を同行させるのは危険だし、かと言ってこの場の二人のどちらかが付いていくと、大仰すぎて怪しまれかねない。
そういったことは彼らもすでに理解しているはずだが、納得しかねる表情でなおも顔を見合わせていた。二人が何を案じているか予想はついたが、あえて尋ねはしなかった。
ようやく、ボロムがため息の後に口を開く。
「わかった。それじゃ念のため、ラグに連絡役で先に出てもらうことにする」
やっぱりなとアディは思った。
つまり万一に備えての補助、陰の護衛ということだ。奴らと三人のみで行動する数日間、不測の事態が起こらないとは限らない。アディ一人でどうにもならなくなった場合に代わって対処するため、少なくとも他に人目のない山越えの間は、ラグニードが隠れて付いてくるのだろう。彼の実力も三人のうちに数えられている。
二人が安堵するのなら、それはそれで良いと思った。アディ自身は単独であっても全く構わないし、不覚を取りはしないと考えていたが。
「さてと、若い連中の様子をちょっと見てきてくれねえか。──ああ、おまえは行かなくていい、ラグ一人で頼む」
立ち上がりかけたアディを、座っていろとボロムは手で制した。ラグニードが出ていき扉が閉まってから、再び話し始めた。
「今さら聞くまでもないかも知れんがな」
「分かってます。いざとなったら遠慮しませんが、そうでない限り傷つけはしません」
こういった商売だからこそ、不必要な殺傷はするべきではないというのがボロムの、ひいては集団における信条であった。傭兵は人殺し稼業とは違う。本当に必要が生じた時にしか、相手を手にかけてはいけない。無闇に他人の命を奪うことは、彼らの中では決して許されないのだ。
「いや、そっちじゃない。──アドラスフィン」
その呼び方に、アディの意識はいくぶん張り詰めさせられた。……ほんの子供の頃、ボロムに拾われてから付けられた名前。
親代わりの彼がこの名を略さずに呼ぶ時は、普段は口にしないことを話そうとする前兆だった。
「わざと使ってやしねえだろうな、あの〈力〉」
「まさか」
言下に否定した。
「団長もとっくに知ってるでしょう。意識して使えるもんじゃないってのは」
「それはそうだが」
だがな、とボロムが言いかけるのを、アディは今度こそ椅子から立ち上がることで止めた。
「やっぱり、俺も様子見てきます」
とだけ言い置いて、呼び止められる前に早足で外へ出る。まだ話を続けるつもりのボロムには申し訳なく思うが、やはり論じたい内容ではなかった。
そのまま歩調を緩めず、同僚が向かったはずの、先程までいた広場へと足を進めた。