宵闇の光

 思い返して、申し訳なさと罪悪感がさらに心に押し寄せる。何か言わなければ  きちんと謝らなくてはいけないのに、何と言っていいのか分からなくて……ただ唇が震えるばかりだった。
 急に目が熱くなってきた、と思った途端、何故かアディがぎょっとした表情になる。
 どうしたのかと思った時にはもう、身体を引き寄せられていた。頭の後ろに回された彼の手が、こちらの顔を肩に押し付ける。
 そうされて初めて、自分が泣いていることに気づいた。自覚した途端、さらに涙が溢れてくる。嗚咽が漏れそうになり、慌てて口を押さえた。
 今の、ほんの少しの間にもう、アディの肩のあたりをかなり濡らしてしまっている。これ以上相手の服を汚さないうちに離れなければと思いながら、動くことができずにいた。背中と頭に回されている腕の力はむしろ優しいぐらいで、逃れようとすれば可能なはずなのに、それができない。
 せめて、早く泣き止まなければと思うのに、堰を切ったように流れる涙は一向に止まってくれない。なおも漏れ出ようとする泣き声を堪えるのが精一杯だった。
 宥めるように背中をさすり始めたアディの手は、大きくて温かくて──先程のことを全部遠くへと押しやり、忘れさせてくれるような感覚をフィリカに与えた。
 その安堵感から連想したのはロズリーのことだ。父の目を憚って涙を飲み込んでいた子供の頃、時折こんなふうに抱きしめて、優しく背中をさすったり叩いたりしてくれた。あの頃、泣くことができた場所は、彼女の胸だけだった。
 今、自分を抱きしめている相手は、当たり前だが彼女ではない。しかし与えられる温かさと安らぎはとてもよく似ていた──だから、涙が止まらないのかも知れないと思った。
 ようやく泣き止むことができた時、いつの間にか相手に縋り付くような体勢になっていたのに気づいて焦った。身体を離し、ともかくあれもこれも謝らなければと口を開くものの、泣きすぎたせいで喉が痛くて、なかなか声が出せない。
 必死に声を戻そうとしている間、アディは再び、手にしている布をフィリカに当てた。顔に残る涙を丁寧に拭い続けてくれている。それが目尻に当たった時、反射的に目をつぶった。
 直後、唐突に彼の手の動きが止まる。
 訝りながらも目を閉じたままでいると、わずかな空気の動きとともに近づいてくる気配を感じた。
 かすかな風と思ったものが、相手の息遣いだとすぐには分からなかった。そうだと気づいて、はっとまぶたを開いた時には、驚くほど近くにアディの顔があった。熱を持ったものが直接に目の縁に触れてきて、思わずまた目を閉じてしまう。
 柔らかな感触がまぶたから頬へと移っていくうちに、口づけられているのだと認識した。途端に全身が硬直し、またもや動けずにいる間に、それはフィリカの唇へとたどり着いた──この上なく自然な動きで。
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