宵闇の光

 上は、一連の確執についてどこかから聞き及んだらしく、最初の尋問からすでに、そのことに何度も触れてきた。どう聞いてもフィリカが同じ答えを返したので、上官の方が根負けして、その時は八回目か九回目で質問を打ち切った。
 しかし、全面的には今も信じてはいないだろう。裏にイルゼ卿の、軍への圧力も大きく作用していると思われるとはいえ、全くの無関係だと判断してもらうには状況証拠からして無理がある。それは自分でもよく分かっている。……だからこそ、今さら前言を翻すわけにはいかない。
 だが──
 「どうしよう」と知らず口に出していた。
 ──子供は、どうしたらいい?
 誰にも話せはしない。ましてや相談など、できるはずもなかった。ロズリーが生きていれば相談できたかも知れないが、彼女はもういない人だ。
 自分で考えて、決めるしかなかった。



 宿舎の食堂で顔を合わせた瞬間、同期の友人は目を丸くした。しばしの沈黙の後、
 「──おい、レシー」
 「ん? どうした」
 「どうした、じゃないだろ……凄い顔になってんの気づいてるか? 隈がまた濃くなってるぞ」
 「あ、そうか?」
 「……自覚ないのかよ」
 呆れたように言われたが、もちろん自覚はある。寝不足なのは間違いないし、この数日続いているから目の下に隈ぐらいできているだろう。分かってはいるが単に、気にしている余裕がないだけだった。
 反射神経の命じるまま、盛大にあくびをする。
 「そういや、メイヴィルもなんかおかしいって話、ほんとなのか」
 何気なく聞かれて内心、心臓が口から飛び出すかと思うほどぎくりとした。しかし表情には出さずに済んだ──はずだ。友人がその時は何の反応も示さなかったから。努めて冷静を装って尋ねる。
 「なんかって、どういうことだよ」
 「え、まさか知らないのか──おまえが」
 かなり驚いた口調で返された。当然の反応だと思うのですぐには返す言葉がなかったが、幸い友人はそれ以上追及することなく、先を続けた。
 「訓練中に時々ぼんやりしてて、一回は打ち込みで負けかけたって聞いたぞ、同じ隊の奴から。そんなこと、今までなかっただろ?」
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