宵闇の光
その通りである。訓練生時代から、フィリカは負け知らずの男女と言われていた。当時からの同期である友人もそのことはよく知っているし、レシーがフィリカを気にかけていることも承知していた。
その友人に「何とかしてやった方がいいんじゃないか」と提言されては、そうだなと頷くしかない。食事しつつも、考えるのは彼女のことのみである。
フィリカの変調には、当然ながら気づいていた。……もっとも、おかしいと知ったのはつい三日ほど前なのだが。妹の結婚式に出るために数日の休暇を取って実家に帰っていたり、それ以前もしばらく彼女と行き会う機会がなかったりしたため、合わせて十日前後、顔さえ見ていなかったのだ。
だから、久しぶりにフィリカを遠目に見かけた時には驚いた──あんなに、一見しただけでも体調が悪そうな彼女は初めてだった。
顔色が青白く俯きがちで、普段より確実に足取りが重く見えた。そしてレシーの見ている前で一度足を止め、目を閉じてこめかみに手を当てる仕草をした……わずかの間だけではあったが、目眩を抑えようとしているかのように。
驚いているうちに彼女が逆方向へ去ってしまったため、その時は声をかけずじまいになった。だがもちろん、ずっと気になってはいた。
フィリカが身体の不調を表に出すなど、子供の頃を除けば見たことがなかったからだ。鞭打ちの件の時でさえ、一見では何事もなかったかのように平然としていた。怪我による発熱さえ、実際に診てみなければ確認はできなかったほどだ。
こうやって聞かれるということは、どうやら一時的なものではないらしい。しかも相手の口ぶりからすると、気づいている人間は他にもまだいるようだった──実際、聞いてきたのは彼が最初ではない。
自分はともかく、他の連中から見てもそれと分かるほどとは……つまり、相当に深刻な状態なのではと、容易に考えが及んだ。
何か、重病の兆候かも知れない。そう思うと文字通り夜もろくに眠れず、故に寝不足が続いている。
次に会う時には……いや、なるべく早く会って、薬師に診てもらうよう手配した方がいい。
そんなふうに考えていたら、早くもその日の夕方に、フィリカと遭遇することができた。
会えたことにほっとしたのも束の間、すぐに彼女の様子に目を奪われる。──背筋を伸ばして歩いてはいるものの、伏目がちであった。何かを堪えるように口を引き結んでいるのも分かる。そしてやはり顔色は良くない。
当人はこれまでのように不調を悟られまいと努力しているのだろうが、レシーの目から見れば、今はほとんど隠しきれていなかった。やはり、何かしらの病にかかっているものと確信し、話しかけようとしたその時。
本館に入ろうとしていたフィリカが足を止め、表情をさらに引きつらせた。かと思うと突然こちらに背を向け、物凄い速さで走り出した。驚きながらもすぐさま後を追う。