宵闇の光
間違いなく、役目の道中で何かあったのだろうと思ったが、何なのかまでは見当がつかなかった。仕事に関係することなら必ず報告するが、それ以外の出来事は個人的なものとして、アディは自分からはやはり言い出さないのだ。
ラグニードも同じく、特に聞かされていることはないらしい。だが、その後彼から聞いたところによると、驚いたことに女絡みらしかった。鎖に通した女物の指輪を手首に着けているのを見たという。
アディがそのような、感傷的とも言うべき行為をするなど、ついぞなかったことである。あの坊主にそこまでさせる女とは一体どんな相手なのかと、純粋に興味を覚えずにはいられない。女どころか、ほとんどの他人に対しては全く執着しないのが、ボロムが二十年見てきたアディの性質だからである。
しかし、意外の念と少しの面白さを感じつつも、素直に喜んでいいのかどうかは判断がつきかねる。はっきり言えば、いくらかの懸念はどうしても感じざるを得ない。
普段の無関心さの反動でか、ひとたび相手に何らかの愛着を持つと、その度合いが行き過ぎる傾向が昔からあるのだ。当人は無意識であっても、ともすれば精神的に依存しがちになる。
時間をかけて相手と付き合ううち、ある程度落ち着いた形にはなるものの、思い入れの強さ自体にはあまり変化はない。
推測が正しければ、アディとその女とは、出会ってからの時間もさほど経ってはいないだろう。つまり、感情がまだ生々しさを伴った状態だと考えられる。
極端な行動に及ばないか……いや、すでに何事かあったのではないかと、気がかりも覚えてしまうのである。
しかし、立ち入ったことを尋ねても、アディが素直に話すかどうかは分からない。そもそも、聞き出したところでどうしてやるわけにもいかない。本人が対処しなければならない問題だと思うからだ──相手への感情が、真剣であればあるほど。
だから当面は、見守るしかないのだった。
ボロムの家を出てしばらく歩くと、道の向こうからラグニードがこちらに向かってくるのが見えた。その後ろからは数人の若者が付いてきている。全員入団一年以内の見習い団員だ。
中の一人は、隣の若者に支えられながらゆっくりと歩いている。訓練中に足を滑らせて頭を打ち、脳震盪を起こしたのだったが、どうやら重症ではないらしい。
ラグニードだけがアディの前で立ち止まり、他は各々の宿舎へと戻っていった。すれ違いざまに会釈していく彼らに、アディは手を挙げて挨拶を返しつつ、怪我人には今日はよく休むようにと声をかけ、件の見習いにはボロムの呼び出しを伝える。