魔術師と下僕
絶叫マシン「うさちゃんコースター」。悪質な詐欺のような名前と見た目だ。前方に愛くるしいうさぎの顔がついていて、うさちゃんの背中に乗るという設定である。だが、待っているのはたのしいおさんぽではなく阿鼻叫喚の地獄絵図、である。
ブルーノはシートベルトがしっかりはまっているか何度も何度も神経質なまでに確認した。
ごおおおお。うさちゃんは狂ったように駆け出し、上下し、回転した。ナターリアが「おわー!!!」と叫んでいる。なぜそんなに楽しそうにできる。そしてコースの一番高いところから高速で滑り降りて行った。
地上へ降りる時、ブルーノは精神的にはかなりぐったりしていたが、ぜんぜんピンピンしているという体を装う。大体、ふれあいコーナーからジェットコースターというこの温度差はなんなんだ。
だが、考えようによってはこれで早くも山は越えたわけだ。あとはのんびりうさちゃんコーヒーカップでも。
と、完全に油断していたブルーノは、ナターリアのやや不満げな表情に気づくのが遅れてしまう。
「ブルーノさん、全然叫んでなかったっすねえ。なんか意外だなぁ」
「いや、叫ぶほどじゃなかっただろ」
否。恐怖で声すら出なかったのだ。ベルトをしっかり握りしめて硬直するタイプのビビり方をしているブルーノの姿は、写真にはバッチリ収まっていた。が、幸か不幸か、二人はそれを見なかったのである。