魔術師と下僕
三段のアイスを食べるナターリアの向かいに座ってお茶を飲み、ブルーノは晴れた日の縁側に腰掛けるご老人のようなため息をついた。
「次はお化け屋敷行きますよ」
「マジか」
お化け屋敷はうさぎの面をつけた死霊たちが次々に襲いかかってくるという設定だ。死霊のイラストはおどろおどろしく、ひとかけらの可愛さもない。大人でも途中退場する客が多いともっぱらの噂だ。
こんなファンシーなテーマパークなのにそこまで気合いを入れるなよ、と内心突っ込むのはブルーノなりの強がり。
中でさまざまな死霊に襲われるが、ナターリアは死霊を見て爆笑しながら「時給いくらですか?」と訊くなど失礼かつ雰囲気ぶち壊しだ。ひどい態度だったが、そのおかげでブルーノも意外と怖くなかったといえる。
もっとお化け屋敷って、きゃあ怖いって女の子がしがみついてくるもんだっていうのを昔の少女漫画で読んだな、とブルーノは振り返る。つまり、漫画は漫画だ、ということだ。
なんとしてもブルーノを怖がらせ、悲鳴を上げさせたいナターリアは、コーヒーカップをぐわんぐわん回したり、うさぎの着ぐるみを連れてきて「なんか怖い話してください」と無茶振りをしたが、迷惑な客だな、と思われる以外になんの効果もなかった。