魔術師と下僕
「そろそろもう少し落ち着いたことしないか……?」
たとえばふれあい広場に戻るとか、とブルーノは言いかけて、いや、もう一度ジェットコースターに、と返されてしっかりもう一度乗った。逆にジェットコースターに対する苦手意識がやや改善されたのではないかと思うほどだ。
「あー、楽しかったっすねぇ」
ナターリアはうーん、と伸びをした。
「じゃあそろそろ」
と、帰る雰囲気を出す彼女に、ブルーノはいや、ちょっと待ってくれ、と切り出した。
「あれ乗って行こう」
ブルーノがやや照れながら指さす先にあるのは観覧車だ。ナターリアは目を丸くしたのち、ぶは、と大袈裟にふき出した。
「なんで私とブルーノさんで観覧車なんすか」
「いいだろ、乗りたいんだよ観覧車」
「じゃ私は下で待ってるんで行ってきてくださいよ」
「お前高い所苦手だったっけ」
「まさか。ブルーノさんじゃあるまいし」
「狭いところは?」
「平気ですけど? なんすかブルーノさん、そんなに私と観覧車で二人っきりになりたいんすか?」
そんなんじゃねえよーーと、ナターリアは言われるつもりだった。けれど、ブルーノはうん、と真顔で頷いた。
「話があんだよ」
「観覧車で? わざわざ?」
「観覧車で、わざわざ」
ナターリアは高い所も狭い所も怖くない。
けれど、ブルーノがこれから話そうとしているのは、おそらく彼女がずっとおそれていたことだ。