魔術師と下僕
外はそろそろ薄暗い。観覧車はどんどん上昇していたが、二人には景色を見る心の余裕がなかった。
観覧車の天辺あたりで告白しようなんて青春真っ盛りか……と、ブルーノはどうしても自分を俯瞰してしまう。それよりも、ナターリアがまともに話を聞いてくれるかも心配だ。
「ブルーノさん、好きな微生物教えてくださいよ」
「え……ミジンコ?」
「へー……」
「……」
「……」
ナターリアが持ち出した話題は毛ほども盛り上がらない。彼女はひたすら目を泳がせた。なにか次の話題はないか。観覧車を降りたらすぐに忘れてしまうような、限りなくどうでもいい話題は。
「じゃあゲームしましょうよ。灯りの点いてる民家の夕飯当てゲーム。わたしから行きますよ、あの家は白菜炒め」
「正解がわかんねえよ……。じゃなくて、ナターリア」
観覧車はそろそろ天辺。
「わ、わかんないからって逃げないでくださいよ、次、ブルーノさんの番っすよ」
「逃げてんのはお前だろ」
ナターリアは一瞬、呼吸を忘れた。
「逃げてる? 私が? 何から?」
「ほらまた逃げる! 知らないふりすんなって」
「なに怒ってるんすか!?」
「怒ってない!」