魔術師と下僕
ブルーノは立ち上がりそうになったが、ゴンドラの中であることを思い出して堪える。そして、深くため息をついた。
「逃げるな、茶化すな、頼むからこっち見てくれ」
ナターリアは耳を塞ぐ。体が少し震えているように見える。
「もうやめてくださいよ、なんなんすかこの感じ。なんていうか、こういうんじゃないっすよね私たち」
ナターリアの言葉は核心を避けるあまり捉えどころがない。彼女の動揺はひしひしと伝わっていたが、ブルーノはブルーノで後には引けない。
「悪いけど、こっちの気が済まないから振るなら聞いてからにしてくれ。ナターリア、オレはお前が」
ゴンドラが開いた。いつの間にか、地上に着いてしまっていたのだ。
ナターリアはさっと駆け降り、ブルーノから距離を取る。ブルーノはそれを見てすっかり肩を落としてしまった。
「わかった。しつこくしてごめん」
何も言わせてもらえずに振られるつもりはなかった。けれど、振り向いたナターリアといったら、嫌がっているを通り越して、泣きそうなのだ。ブルーノは自分まで泣きたくなってしまった。
「もう何も言わないから、帰ろう、な」
「意味わかんないっす」
ナターリアはとうとう泣き出してしまった。そして、泣きながら訊いた。「だって、よりにもよってなんで私なんすか」