魔術師と下僕
ナターリアは、かつて近所で評判の美少女であった。
だから、多くの人が彼女を一目で気に入ったし、小学校では学年を問わず友達になりたいという子がやって来た。
しかし、近づいて来た人は大抵、同じことを言って離れて言った。
「ナターリアちゃんって、なんかイメージと違う」
「黙っていればかわいいんだけどね」
おしゃべりが好きなナターリアにとって、この評価は大変な苦痛であった。いろいろなにおいを嗅ぎまくる様子も、周囲には気味が悪くうつったらしい。
成長につれてやや視力が落ち、大きな眼鏡をするようになった頃、もはやナターリアと仲良くしようという子はひとりもいなくなっていた。
いつしか、彼女は自然と騒々しく振る舞うようになった。誰かに期待されないように。また、誰かに期待しないように。
「私、ブルーノさんが思ってるような人間じゃないっすよ。百パー幻滅しますし、深く関わるだけ時間の無駄なんですって」
ナターリアの言葉を受けたブルーノは、自分の言い分をどう整理するかで頭を悩める羽目になった。伝えるべきことが多すぎる。そこで。
「ナターリア」
「なんすか」
「もう一回、観覧車に乗ろう」