魔術師と下僕
観覧車は二人を乗せて、再びゆっくりと動き出した。
「ナターリア」
「はい」
ナターリアはびくついた。ブルーノの雰囲気が怖い気がするのだ。彼は咳払いをした。
「とりあえず、まずは『舐めんじゃねえぞ』という話から始めたい」
「急に物騒」
物騒にもなる。ブルーノはそこそこ怒っていた。
「さっきお前、お前はオレが思ってるような人間じゃない的なこと言ってたよな」
「言いましたね……」
「オレがお前をどう思ってるかはオレしか知らない、勝手に決めつけるな、これがまず一点」
わあ、複数あるんすねと、ナターリアは亀のように首を縮こめる。
「あと幻滅はわりともうかなりしているから、よっぽどのことがないとこれ以上はない」
「悪口かよ」
「いや、愛だ」
「愛なんすか?」
自分でも驚くほど自然に愛とかいう単語が出てきてブルーノは恥ずかしくなったが、立ち止まっている場合ではない。言いたいことはまだある。
「それに、お前がオレに幻滅することだってあるかも知れないし、無いことにしたいけど、そこはお互い様だ」
「それは無いです! 大丈夫です」
ナターリアが自信満々に言い切るので、おおそうかそれは良かったなっていうかそうなんだめっちゃ嬉しい、とブルーノの情緒は荒れる。
「『深く関わるだけ時間の無駄』っていうの、あれキツかったな。五年つるんでそりゃねえだろ。残念ながらこの五年、無駄な時間なんか一秒も無かったわ。なんならお前といる時のオレが一番輝きを放っている自信があったわ」
やけっぱちになってぶっちゃけると、ナターリアはようやく少し笑った。「ブルーノさんいつの間に輝いてたんすか」「比喩だ、比喩」