魔術師と下僕
自分の言葉に、イリヤは自分で驚きながらも続けた。
「ああ、だからですか。恋人が出来たら紹介するようにだなんて、なんか急ですし、変な気がしたんですよね」
「そんな相手いないよ。僕は忙しいからそれどころじゃない」
「どうでしょう。……たとえば」
思い浮かんだのは校長のミラルダだ。
美しく、大人の魅力があり……イリヤは自分と比較して、虚しくなった。自分とは真逆のタイプと言っていい。もしもジオの好みがミラルダのような女性なら絶望的だ。
「校長先生とか」
「ないない……イリヤはあの人の怖さを知らないんだよ。の前に既婚者だし」
ジオはおお怖、と身震いをして見せた。
「既婚者」
イリヤはこっそり胸を撫で下ろす。だが、安堵してばかりもいられない。
「じゃあ他の人ですか」
「なんでそういう話になるかな」
「最初に恋愛の話をしたのはジオです」
「……それはそれ」
とにかくさ、とジオは誤魔化すように言った。
「僕はどんな形であれ、イリヤに幸せになってほしい」
「どんな形でもいいなら、ジオの側で幸せになりたいです」
それはほとんど告白のようなものだったが、そのことには互いに気づかなかった。ただジオは少し寂しそうに、「それは駄目だよ」と言った。