魔術師と下僕

「なにが駄目なんですか? わたしはジオが好きなのに」

 ジオは大きく目を見開いた。今度こそ本当に告白だった。

 イリヤは言葉を継ごうとするが、不意に涙が出てきてうまく話せない。


「僕は」


 少しだけ、ジオの視線が彷徨う。


「イリヤのことがすごく大切なのは本当。だけど、君に恋することはできない」


 その言葉はイリヤの耳には厄介な呪文のように聞こえた。意味がうまく頭に入ってこない。


「よくわかりません。それって、好きじゃないってことですか」
「違う」
「そういう風にしか聞こえないです」


 次の瞬間。

 イリヤはカエルの姿になって、ジオの目の前にいた。カエルは微動だにしない。

 苦手なカエルを前にして、さすがに青ざめたジオだったが、じっとその姿を見つめ続けた。キスをしてしまえばイリヤの姿に戻るのに、ジオはそうしなかったのだ。

 先に折れたのはイリヤだった。

 カエルの姿のままぴょんとテーブルを降りると、彼女はひとり、空いていた窓から外に飛び出した。
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