魔術師と下僕
憂さ晴らしに庭のなかを散策しようかしら、とイリヤは跳ねた。今の姿ならただ庭を移動するだけでも大冒険だ。
普段は見ない角度から草花を見上げるのも面白い。ジオが何かに使うために育てているものも多々あるのだろう。ずっと小さい声で独り言を言っている花を見つけて、イリヤは少々ぎょっとした。かたつむりが何を気にする風でもなくその側を通り過ぎる。
スケッチでもしたいところだったが、この姿では鉛筆も持てないのが惜しい。
と。
草の中からイリヤより一回り大きなカエルが現れた。
「ゲコ」
話しかけてみると、「ケロロ」と返ってきた。何を言っているのか分からないが、感じのいい人だ。いや、人ではないけれど。
しばらくケロケロクワッと世間話をしたのち、イリヤは思い立ち、そのカエルとキスをした。
彼女の読み通りーーちゃんと人の姿に戻ることができた。よく考えたら、例の本にはキスの相手が人間でなければならないとはどこにも書いていなかったのを思い出したのだった。
と、近くで「うわっ!」と男の悲鳴が聞こえた。「な、なんだお前か。今、地面から生えてこなかったか?」
それは、作業着姿ではないものの、なぜか頭にタオルを巻いているレンブラントだった。