魔術師と下僕
「やめてください」
イリヤは淡々とジオとレンブラントの間に割って入った。そして、コーラで服が汚れるのも構わずレンブラントの腕を取った。
「わたし、出かけてきます。行きましょうレンブラントさん、ここにいたら危ないです」
「え? 何が?」
嫌がらせをしに来て喧嘩に巻き込まれたのは因果応報と言うべきだろうか、レンブラントはこいつら何がしたいのか全くわかんねえ、という顔をした。
ジオは嫌悪感たっぷりの表情でイリヤとしばし睨み合いになった。しかし、引き剥がすことはしない。そのうちイリヤはそうですか、とばかりにふいっとそっぽをむき、レンブラントを引き摺るようにして庭を出てしまった。
やがてしばらく歩くと、イリヤはぽつりと言った。
「すみません、せっかく遊びに来てくれたのに」
「バカ言え、オレは嫌がらせしに行ったんだ」
レンブラントは脱ぎたての靴下を嗅がされたような顔をした。しかし、「お前ら、どうしたんだよ」とイリヤを心配するようなことを言う。
「わたし、家を」
出る、と言おうとしたとき、不意に涙が込み上げてきて堪らなくなった。仕方なく、「出ることになりまして」と鼻声で続ける。
「ジオルタが出てけっつったのか」
レンブラントは即座に決めつけた。まるでイリヤたちのやりとりをどこかで聞いていたかのようである。が、わざわざ嫌がらせをしに直接やってくる行動力はあっても盗聴器を仕掛けるような知恵は彼にはなかった。