魔術師と下僕
「少しニュアンスが違うんですが……」
イリヤがかくかくしかじかと説明をするたびに、レンブラントは、ああなるほどね、となにやらニヤつき出す。
「どうかしましたか?」
たまらずイリヤが訊くと、
「ジオルタのやつは相変わらずだな」
と言った。なぜか、ひどく嬉しそうに。そして訊いてもいないのに、「あいつは昔からそういうやつなんだ」と勝手に続けて、ひとりで頷いている。どういうことですか、と訊いて欲しそうなので、どういうことですか、とイリヤは言った。
「自分が気に入ったものはぜんぶ遠ざけようとしやがるんだ。それって変だろ?」
ジオと遊んでくれようとした子供たちは徹底的に遠ざけ、本を読むか勉強をしていたし、レンブラントがカブトムシを飼っていたのを羨ましそうにしながらも、自分がそれをしようとはしなかった。
妙だ妙だとは思っていたが、なにより不可解だったのは、師匠であるタミヤの元を離れるときのジオの言葉だったという。
「『僕はここには必要ない』」
レンブラントはジオのモノマネらしき口調でそう言った。イリヤはにわかに胸が苦しくなった。
「なんだそれって感じだろ。必要もなにも、居るから居るんだろうが」
レンブラントは笑ったが、イリヤは別のことを考えていた。誰かにとって自分は必要ないと感じさせた『何か』。幼いジオにとって、それはなんだったのだろう。