魔術師と下僕
誕生日が目前に迫ったある日、ジオはイリヤをタミヤの墓に連れて行くと言った。その後で、タミヤの家を訪れることにしている、と。
イリヤの頭はこんがらがってしまった。
ジオの師であるタミヤは存命である。タミヤの家は代々「タミヤ」という名前を継承しており、タミヤの墓にはその歴代のタミヤが眠っているのだ。タミヤはほとんどが女性だが、まれに男性のタミヤがいたこともある。タミヤタミヤタミヤ。ややこしいことこの上ない。
「僕かレンブラントが養子になってタミヤを継ぐ可能性もあったけれど、僕は家を出たし、レンブラントにはあの通り素質がない。おまけに先生は、今となっては存在意義の分からない風習だから、自分の代で終わりにしてしまってもいいと言ってる」
タミヤの墓へ向かう電車の中で、ジオはそう教えてくれた。
自分の家のことなのに「存在意義のわからない風習」と言い切ってしまうなんて変な話だな、とイリヤは思った。
彼女の表情を見てジオは、「変な話だよね。昔は自分の家のオリジナルの魔術を伝えるとかいう目的もあったけど、それが価値を失った今となっちゃ、面白がってこだわるやつと、別に興味がないからどうでもいいってやつの二通りがいるってだけらしい」と付け加えた。
その口ぶりから察するに、ジオは後者なのだろう。