魔術師と下僕
タミヤの家は、墓地のすぐ近くだ。
墓地を出たところで、イリヤは綺麗な白い花を見つけた。
「これはお茶にできますか?」
「ああ」ジオは一応頷いたが、少し間を置いて、「あまりおすすめはしないけどね」と言った。
酸味は強いが飲めなくはない。問題は、それは性的な魅力を引き出す、いわゆる惚れ薬的な効果を持つ花だったということだ。『イリヤの身に万が一のことがあってはならないので使わないと決めた植物リスト』の中に、この花の名はばっちり記されている。
「へえ……」
イリヤは一輪だけこの美しい花を摘み、タミヤへの手土産が入ったかごにそっと入れた。
先に歩き始めていたジオは、イリヤが付いてきていないと気がついて、「そろそろ行くよ」と彼女を呼んだ。
「はーい」
イリヤは立ち上がり、スカートを払ってジオを追いかける。彼の背中に追いついた、その時だ。
「おい!」
背後から鋭い声がして、イリヤはびくりと身を震わせた。
振り向くと、真っ黒い制服を着た男が立っている。男は傍に、首輪を付けた大きな犬を連れていた。