魔術師と下僕
「おいおいおいおい」
奇妙ななりの男はずかずかとイリヤに近づいてきた。すかさず、ジオが割って入る。
なんでしょう、とイリヤは怯えた。「さあ。少し頭がおかしいんじゃないの」とジオは聞こえよがしに言う。
「おいおいおいおい。なんか言ったか、おいおい」
男はぐりんと首を傾げる。
「なあジャック。ジャックも聞いただろ。こいつ、おれをおかしいって言ったぞ。罪人を庇っているくせに。おれを笑わせたいのかなあ」
男は首をぐりんと元に戻した。
「罪人ってなんの話だよ」
「とぼけるな。その女、墓泥棒だろ」
「墓泥棒?」
今度はジオが首を傾げる番だった。
「この子は何も盗んじゃいないよ。ただここに祈りに来ただけ」
「じゃあ」男は黒い手袋をはめた指で、イリヤのカゴを指した。「それはなんだ?」
イリヤはぎくりとした。
「これは訪問先への手土産だ」
「手土産? でもおれは見た、この目で見た。その女がカゴの中に墓地の花を入れたんだ」