魔術師と下僕

「墓地の花?」


 もしかして、という顔でジオはイリヤを見た。墓泥棒などしたつもりはないイリヤだが、こうなるとばつが悪い。


「これのことですか」


 イリヤが花を差し出すと、「墓からはずいぶん離れているじゃないか。それを墓泥棒とは言いがかりだね」やれやれといった調子で、ジオは制服男に言った。


「おたくは魔術警察の下っ端? 賞与の査定が近いとかそんな理由でいちゃもんつけてるのかな。だとしたらもっとやるべきのとがあるんじゃないの」


 魔術警察は魔術に絡む犯罪を取り締まる警察で、その特性上魔術を扱えるものがその職につく。通常の警察とは違いーーまともな人物はほとんどいない。


「ジャック。こいつ、おれを下っ端って言った。間違いなく言った。おれはこの耳で聞いた」

「お前その犬を通さないとまともにコミュニケーション取れないわけ? すっごいキモいんだけど」


 ジオはずけずけと言い放つ。


「おれはキモくない。ジャックもそう思うだろ?」


 ジャックはわん、と鳴いた。主人に忠実らしかった。


「墓石からは離れていても、花があるのはタミヤの敷地だから泥棒は泥棒だ。罪人は逃がさない。取り締まらなくちゃいけない」

「面倒だな。仮にそうだとしても、この土地の所有者は僕の師匠だし、すぐに話はつくことだ。ボーナスを上げたいなら他で頑張ることだね」
< 134 / 168 >

この作品をシェア

pagetop