魔術師と下僕
第二話 カエルになった

 イリヤは困っていた。
 ある日の昼頃である。
 カエルの絵本を音読していたら、あるシーンで突然視界が歪んだ。
 そして。

「ケロ……」

 カエルの姿になってしまったのである。

 姿見に映った自分の姿を見て、それが分かった。
 ジオの助けを借りるしかないと思ったが、なにを話そうとしても「ケロ」とか「クワッ」とかいう声しか出ない。これでは意思表示もままならない。

 絵本のせいでカエルになったのであれば絵本にヒントがあるはずだと考えたが、カエルの姿ではうまくめくることができない。絵本のリアルなカエルの絵が自分にそっくりで、イリヤはすっかり悲しくなってしまった。

 このまま元に戻れなかったら自分はどうなってしまうのだろう。まさか、虫を食べたりして生きていかなければならないのだろうか。イリヤはゾッとした。

 下の階から、「ちょっと。お昼作ったから降りて来て。早く来ないとお前の分も僕が食べるからね」とジオが呼んでいる。しかし、この姿で行ったところでイリヤだと気がつくだろうか。

「おーい、下僕のくせに主人を無視する気?」

 階段を登ってくる足音。そして、部屋の扉がノックされる。

「イリヤ? もしかして寝てるの?」

 再びノック。

「おーい」

 しかしイリヤは返事をすることができない。カエルだから。

「ちょっと大丈夫なの? 開けるよ?」
 
 少し心配そうなジオが、部屋に入ってきた。
 イリヤは慌てて物陰に隠れた。
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