魔術師と下僕
【マリア】の声に、ジオは手を止める。テーブルに置かれたカップから、ココアの香りが広がった。
「ああ、ありがとうございます」
「お茶じゃないけど」
照れ臭そうに彼女は笑って、ふとジオをまじまじと見つめた。
「何か」
短く訊ねると、【マリア】は「皺」と言った。そして額に指先が触れる。ジオは驚いて顔を背けてしまった。ココアのカップを持っていた彼女の指はほのかに温かかった。
「びっくりさせてごめんなさい。勉強大変みたいだけど、少しは寝てね」
【マリア】は自分が大あくびをしながら言った。
ジオはそんなのほほんとした表情を見ながらも、まだ動揺していた。気を取り直して、眉間の皺を指で伸ばす。
そして、気がついた。
ーーあの巨大な【手】は、自分ではなく【マリア】に用があるのではないか。
ジオはいくつかの本を持ち出して、あらためて調べ始めた。いつの間にかまた、眉間に皺を寄せながら。