魔術師と下僕
「ひとつ教えてください」


 テーブルを挟んで向かいに座る【マリア】は、ジオの真剣な表情とは裏腹にまだ寝ぼけているかのような、きょとんとした顔をした。そして、「なにを?」と首を傾げる。

 それを見ていて、ジオはふと思う。何も訊ねなければ、彼女は一日でも長くここにいてくれるのだろうか、と。

 けれど、彼は訊ねた。どちらにせよ、ずっと一緒にはいられないからだ。


「ーーあなたがここに来た本当の理由って、なんですか」


「それは」【マリア】の表情が一瞬にして曇る。すっかり目が覚めた、といった様子だ。「ごめんね。多分、言わないほうがいいと思う」


 言わない方がいいこと。やはり、彼女はなにか良からぬことに関わっているのだろうか。


「じゃあ」と、ジオは質問を変える。「あなたを迎えに来る人に、心当たりはありますか?」


 途端。

【マリア】は大きく目を見開いた。そして「ジオ」と呟く。

 一瞬自分のことだと思ったジオは、はい? と訊き返したが、【マリア】にはもう聞こえていないようだった。

 でも、この様子だと間違いない。


「あるんですね、心当たり」


 うん、と【マリア】は頷いた。


「わたし、その人のところに帰らなきゃいけないの」
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