魔術師と下僕
第十二話 魔術師と下僕

 おそるおそる目を開けると、眩しい昼のひかりのなかに、いつもの景色が広がっていた。

 いつもの景色といっても、さっきまでとは少し違う。庭の植物は豊かで、家は少しだけ古くなり。

 なにかを摘んでいたのかしゃがみ込んでいるジオがいる。彼がふと立ち上がる様子を、イリヤはついまじまじと見つめた。少年ではなく、大人の男性の広い背中だ。いきなり成長してしまったように見えるのが、とても奇妙だ。

 どう声をかけたものか考えていると、ジオはこちらを振り向いた。

 何を言われるかと思うとどぎまぎする。一応感動の再会、ということになるのだろうし。

 身構えたイリヤにしかし、ジオは特に驚く風でもない顔色は悪く、頬の肉もややこけてしまっている。やれやれ、と頭を抱えると、

「ひと月も休めだなんて大袈裟だと思ったけど、幻覚まで見えるようになったら、もうどうしようもないな」

 と、自嘲気味に言った。

 どうやらイリヤを見て、自分は幻覚を見ているーーと、思っているらしい。いやいや、とイリヤは弁解した。


「あの、わたし、幻覚じゃないです」
「幻覚が喋ってる。僕はもう駄目かも知れないな」


 これにはイリヤも少しだけ腹を立てて、更に言い募る。


「ですから、幻覚じゃなくて本物です!」
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