魔術師と下僕

 ジオはそれから何度もイリヤの方を見たし、トイレに行くだけでもそわそわしていた。

 そしてちょっと恨めしそうに、


「君は随分元気そうだね。僕は気が気じゃなかったのに」


 などと言い出すものだから、悪いとは思いながらも、イリヤは照れてしまう。

 テーブルを挟んで向かい合わせに座ると、じわじわと帰ってきたという実感も湧いてくる。

 ジオと目が合うとさっきのキスのことを思い出して、イリヤは密かに頬を赤らめた。


「で、どこに行ってたの?」

「うーんと、……ジオのところに」

「僕の?」


 ジオは目を丸くした。


「はい。この家に住み始めた頃のジオといました」

「……そうか」


 ジオは何故かため息をつく。「それは随分不便をかけただろうね」と。昔を思い出しているのだろうか。


「いえ」とイリヤは笑った。「とても良くしてもらいましたよ。昔のジオも……かわいくて」


 かわいい、と表現したのは本心でもあり、ちょっとした悪戯心のつもりでもある。


「……そりゃどうも」


 ジオは絶対に「どうも」となんか思ってない口調で言った。
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