魔術師と下僕
そこで、イリヤは気がついた。
「すみません、ジオ。わたし、言わなきゃいけないことがあって」
急に深刻な表情になるイリヤに、ジオも身を乗り出す。
「あの、マリアさんのことなんですが」
「えっ」
ジオはわかりやすく動揺した。「……その人のことはどうやって知ったの」
そうたずねられると少々バツが悪いが、うっかりジオの日記を見てしまったのだーーということを、イリヤは白状する。ジオは「そうか……」と呻きつつ、あああ、と両手で顔を覆った。よほど恥ずかしいらしい。イリヤも申し訳ない気持ちでいっぱいである。
「それでわたし……昔のジオに会った時、なんとなくイリヤと名乗るのが変な気がして……咄嗟に言ってしまったんです。マリア、と」
話しながら、イリヤはだんだん恐ろしくなってくる。
「あの、それで、何かおかしなことになってないでしょうか」
「おかしなこと?」
「ジオと出会うはずだった本当のマリアさんが……き、消えてしまった、なんてことは」
そこまで聞いて、ジオはふっと考え込むような表情になった。
まさかそんな恐ろしいことをしてしまっていたらどうしよう、どうしてマリアなんて名乗ってしまったんだろう……と、イリヤは大いに焦る。
しばらく黙り込んでイリヤを震え上がらせたジオはやがて、「そうか」とくすくす笑い出した。なにがおかしいのだろうか。