魔術師と下僕
「それにしても、変な話だな」
ベッドの中で、ジオは笑う。
「なにが?」というイリヤはジオの隣でぴったり体を寄せながら問いかけた。
「過去の自分と君を取り合っていたみたいで、なんだか笑えるよ」
取り合い。イリヤは急に頬が熱くなって、顔を隠す。
イリヤの姿が見えなくなるとやっぱり帰ってきたのは夢だったんじゃないかとすごく不安になる。
そうジオが言ったので、今夜は隣で眠ることにしたのだ。ジオに何かされそうになったらすぐにカエルに変身する、と照れ隠しに言い添えて。
「過去の僕は辛いと思うけど、今はとても幸せだから、少しだけ我慢してもらおう」
そう言われると、あの少年のジオの姿を思い出して、ちょっと切なくなってしまった。
それでも今ここにいるジオは見たことがないくらい穏やかな表情で。
眉間に皺を寄せていないとこんなに優しい顔になるのか、と意識してしまうと、なかなか直視できない。
「イリヤ」
「は、はい」
名前を呼ぶ声も、距離が近い分、全身に響くようで。
「……おやすみ」
「おやすみなさい……」
ジオは目を閉じて、やがて寝息を立て始める。寝顔も、とても安らかなものだった。
ジオはほんとうに久しぶりに、朝まで一度も目覚めることなく眠った。
一方イリヤは緊張でほとんど眠るどころではなかったのだが。