魔術師と下僕
 いつもは余裕たっぷりな校長が、今日ばかりは驚きに目を見開いていた。
 イリヤが帰ってきたことを、ジオと二人で報告に来たのだった。


「……戻ってこられたのか」
「はい、おかげさまで」とイリヤは笑う。

 そうか、と校長はほっと安堵のため息をつく。

「学外で起きたことだし珍しい例でもあったが、指導不足で危険な目に遭わせてしまったね。墓荒らしや魔術警察について、もっと早期に教えておくべきだった」

 申し訳ない、と頭を下げる校長に、「いっいえいえ! わたしの不注意ですから……」とイリヤは否定する。

 すると、

「イリヤ……僕がついていながら……」とジオまで頭を下げ出す始末。

 大人二人に頭を下げられている状況にイリヤはものすごく慌ててしまった。

 ジオとイリヤは校長室の応接セットに座らせられた。


「で……イリヤ君。魔術警察に会ったあと、何があったか教えてくれるかな?」


 イリヤは過去に行ったこと、過去のジオの元に身を寄せたこと、不思議な【手】によって帰ってきたことーーを、話した。

「【手】?」と、訊ねたのはジオだ。
「そうです」とイリヤ。

 あんなに不気味だったのに、不思議と怖くないーー今思えばその先に、ジオがいるような気がした、あの巨大な手。

「君がいなくなっていろいろ試したけれど。もしかしたらその中のどれかが、上手く働いたんだろうな」ジオは考え込むようにしながら言った。

 校長はその話を興味深そうに聞きながらメモを取っている。差し支えなければ、今後の指導に役立てさせてほしい、ということだった。
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