魔術師と下僕
話している途中、校長室の扉がばーん、と蹴り上げられた。三人が一斉にそちらを見る。
汚れた作業服姿のレンが、二匹の猫ーーシルフィとライナルトを両脇に抱えて現れたのだ。
レンはイリヤの姿に気付き、ぽかんとした。レンの腕をするりと降りた猫たちが、イリヤの元に駆け寄る。シルフィはイリヤの膝に飛び乗ってニャーニャー鳴いた。ライナルトは……ジオの視線を気にしてか、膝には乗らずイリヤの足元の床にちょこんと座る。しかし、二匹ともとても嬉しそうだ。
レンの頭からぱさっとタオルが落ちた。
「お前……帰ってきたんだな」
「レンブラントさん! お久しぶりです。お元気でしたか?」
イリヤはまだ信じられないような様子のレンに優しく語りかけると、
「こっちのセリフだわ! ボケ! どこ行ってたんだよ!」と叫ぶなりしゃがみ込んでおいおい泣き出した。そんなレンを、ジオが鬱陶しそうに見つめる。イリヤは思いがけない展開に驚き、校長が「おやおや」と笑った。
「オレはお前がいない間、ジオルタのバカがおっ死ぬんじゃねえかと心配で心配で……」
ジオはそれを聞いて「やれやれ。ご心配どうも」とさらに鬱陶しそうにしたが、校長はそれはわかる、といった表情で頷いていた。
「レンブラントさん」イリヤはシルフィを膝から降ろすと、レンのそばに近づいてしゃがんだ。
「ありがとうございました。ジオのこと、見守ってくれて」
レンはふっと顔を上げると、「うるせー。オモチャに死なれたら困るからだよ!」と妙な悪態をついた。