魔術師と下僕
その時。
再び校長室のドアが開いて、実習班の四人が駆け込んで来る。
「イリヤさぁん」
ナターリアが涙でぐちゃぐちゃの顔でイリヤに突進してきた。イリヤは彼女をふらつきながらも抱き止める。
「イリヤさんのにおいぃ」
イリヤは思わず笑ってしまった。
「ただいま、ナタちゃん。……みんなも」
無事に帰ってきたこと、学校に報告に行くことを知らせたら、四人とも駆けつけてくれたのだ。
ヒルデがゆっくり近づいてくる。
「すごく怖かったよね。……なんともない?」
言葉の終わりの方は涙声だった。イリヤが「平気だよ」と答えると、ヒルデは安心したように笑って、イリヤとナターリアを包み込むように抱きしめてくれた。
「ナターリアのやつ、ここに来るまであちこち嗅ぎ回ったんだぜ」とブルーノが呆れたように言う。「文字通り、犬のようにな」
「犬にもなりますよぉ」ナターリアが情けない声を出すので、イリヤもヒルデも笑ってしまった。その振動がお互いの身体に伝わる。みんなのところに帰って来られた。それをあらためて実感できて、この上なく嬉しい。
「お前……さっきから息止めてるだろ」ブルーノが隣のヴィットリオに言った。「泣きたければ泣いた方がいいぞ」
ヴィットリオは「ぐふっ」と言ったかと思うと、下を向いて嗚咽を漏らし始めた。その肩を、ブルーノはそれ以上何も言わずに抱いた。
「君らは……さっきからここが校長室だと忘れてないか?」と校長は咎めるように言うが、顔は笑っていた。
「こちらは充分情報をもらったし。どこかで積もる話をしてくるといい」
といっても誰も聞いちゃいないが、と校長は頭を掻く。
ジオはそんな校長に、無言で頭を下げた。