魔術師と下僕
正直草のスープ
初老の女性は割れたマグカップの前に、二人の教え子を呼び寄せた。
「先生、僕じゃありません。こいつがやりました」
黒髪の少年は、金髪の少年を指さす。
「そうなの、レン?」
「はあ!? 嘘ついてんじゃねえよ! お前がやったんだろ!」
金髪の少年は激しく反論した。
「あとこいつとか言うな、年下のくせに!」
二人のやり取りに初老の女性、タミヤは「困ったわねぇ」と呟くが、面白がっているような表情だ。
「じゃあこうしましょう。二人ともお座りなさい」
タミヤは睨み合う二人の少年を並んでテーブルにつかせる。そして、それぞれに湯気のたつカップを差し出した。
「先生、これは?」
金髪の少年、レンブラントが訊ねる。
「『正直草のスープ』よ。これを飲むと、みーんな嘘がつけなくなるの。ま、15分くらいだけどね」
「ふーん。おいしそう。いただきまーす!」
レンブラントがさっさと手をつけたのに対し、黒髪の少年、ジオルタはなかなか飲もうとしなかった。
「おや、ジオは飲みたくないのかしら?」
「……変なにおいがする。おいしくなさそう」
「そう。確かにジオの口には合わないかも知れないわね。でも、嘘をついていないなら、飲めるはずよね?」
タミヤに言われて、ジオルタは渋々口をつける。
「なにこれ! すっごく苦いんだけど!」
タミヤはそれを見てけらけら笑った。
「じゃあ、もう一度訊くわね。カップを割ったのはどっちかしら?」