魔術師と下僕
第三話 大人になった
ジオとイリヤは市場に買い物に出てきた。
ジオは、面倒だからネットでできることはネットで済ませたい、と常に考えているタイプだが、自分はともかくイリヤには生活に必要な一通りのことを教えておきたい。
いつかイリヤがひとり立ちをする時のためにもーーと考えて、胸の奥に一抹の寂しさが湧き起こる。いかんいかん、とジオはひそかにそれを追い払った。
イリヤは賑やかな場所にいるのが落ち着かず、ジオに「何か見たいものはないの?」と問われても、「わからないです」と自信なさげに答えるばかりだった。
「それなら僕の用事を済ませるから、なにか思いついたら言って。いいね?」
「はい!」
ジオは真っ先に古本屋に立ち寄った。古い詩集なんかがひと山いくらで売られている。想像力の要る魔術を試すときなど、詩の言葉は何かと役に立つので、ジオは名前も知らない詩人の本をときどき手にしていた。
ふと見ると、イリヤが分厚い本をめくりながら顔をしかめていた。赤銅色の装丁が美しい、有名な児童書だった。ジオはさすが我が下僕、目が高い。と内心誇りに思いながら、その本と子供向けの辞書を買うことにする。
続いて、広い意味での花屋、に立ち寄った。広い意味での、とは、ここでは花柄の物も取り扱うし果ては花火や電球なども取り扱っているので、半分は雑貨屋、ということだ。ジオはお茶を作るため、イリヤの口にも合いそうな優しい香りの花をいくつか選んだ。