魔術師と下僕
次に、子供服の店があったので立ち寄ってみた。ジオは正直なところ、今まで買い与えたものがイリヤの好みに合っているのかどうか自信がなかったのだ。
どうしたらいいかわからない様子のイリヤに、これはどう? じゃあこれは? と、次々と服を見せていくが、大きな反応は見られなかった。
やはりすぐには難しいか、と諦めたときだった。イリヤの視線があるディスプレイに釘付けになった。
くまの着ぐるみパジャマだ。
予想外のことにジオは少々面食らったが、「これが欲しいの?」と訊ねてみる。
「あ、いえ……」とイリヤは伏し目がちになる。
「あら、いいわねえ。お兄さんとデート?」
いつの間にか、店員が近づいてきてイリヤに話しかけている。普段衣類を買うときは店員を避けるジオだったが、今回に限っては話が別だ。この子に合うサイズありますか。そう訊こうとした時。
「あのっ、お兄さんではなくこの方はご主人様です。わたしは下僕です」
イリヤが律儀に訂正した。
「……へえ」
……女性店員の目つきが、お客様に向ける柔和な視線から、ゴミを見る目に変わった。
なにやら居心地の悪さを覚えたジオは、着ぐるみパジャマだけを購入した。そして、若干蔑みの混じったような「ありがとうございました」の声を背中に受けながら、足早に退散した。