魔術師と下僕
「どの人?」
ジオはイリヤの隣に立ち、片手を取る。イリヤの頭の中のイメージが、うっすらとジオに伝わってきた。それを頼りに人混みを目で追う。黒い服を着た背の高い痩せた男。それから、同じく黒服で太った中年の女がいた。いずれも髪は白髪混じりで、この世の全てを憎悪しているかのような表情で野菜を睨みつけている。意識して観察すれば、かなり異様な雰囲気の二人だった。
「ーーあいつらか」
ジオの視線の先を見て、イリヤは何度も頷いた。
二人は胴間声を大きく張り上げており、会話の内容がわずかに聞こえてくる。あの様子ではどうせろくな話題ではあるまいと悟ったジオは、イリヤの頭を抱え込むようにして耳を塞いだ。
「あんた、さっさと決めとくれよ。ガキどもの食う物なんてなんだっていいだろ!」
「うるせえよ」
男は店主を呼びつける。
「おい、あんた見ろよこれ。こんな傷モンのカボチャ、客にまともな値段で売りつけようってんじゃねえだろうな」
わざと傷をつけたのではないかと疑いたくなるような口調だ。ジオはうんざりした。聞くに耐えない。
「ここから離れた方がいい。行こう」
と、イリヤを立ち上がらせようとするが、イリヤは驚きと恐怖で動けない。