魔術師と下僕

「ったくあのガキ、逃げる前に内臓でも抜いて売っぱらっちまえば良かったぜ」

「あんたもしつこいね。もういいよその話は、どうせどっかで野垂れ死んでるでしょ」


 周りの人間が眉を顰めるような話を、堂々と往来で。怒りを通り越して呆れてしまう。一体あの二人の、あるいはもっと大勢の似たような大人の元で、イリヤはどんな目に遭って来たのだろう。

 ジオはイリヤの耳を塞いでいる手をどけて頭をくしゃくしゃに撫でてやりたいような気持ちになった。が、ひとまずは堪えて、この場を切り抜ける方法を考える。

 死んでいると思っているのならその方が都合が良い。あいつらに、今のイリヤの何一つだって知らせたくない。

 ジオはイリヤにごく簡単な魔法をかけた。そして、彼女の耳元に囁く。


「ゆっくり立ってごらん」


 イリヤは蒼い顔をしながらも、ジオの言葉に従おうとして……ふらつく。なんだか急に身体が重たくなった気がしたのだ。


「気をつけて、荷物は僕が。歩ける?」
「は、はい」
「はいじゃなくて、うん」
「うん……?」

 理解の追いついていないイリヤに、ジオは手短に伝える。

「僕らは今から五分だけ恋人」


 そしてジオは、自分の肩ほどの高さになったイリヤの顔を見る。


「分からなくていいよ。ついておいで」


 ジオと、五分だけ大人の姿になる魔法をかけられたイリヤは、誰がどう見たって恋人だった。

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