魔術師と下僕
あの人の声
 
 (ジオ)

 あの人の声が、蘇ってくる。

 五分間だけ大人になったイリヤは、髪こそ短いとはいえあの人にそっくりだった。

 ただ成長した姿にしようとしただけのつもりがあんなに似てしまうとは思ってもみないことだった。

 我ながらどれだけ未練がましければ気が済むのかと、情けなくて仕方がない。

 それでも、くまさんの着ぐるみを着たイリヤはイリヤで、まだ別人と認識できているということに、少しだけほっとする。

 検索すると着ぐるみパジャマはくまさん以外にも種類があって、ひとまずはイリヤが着たら絶対に可愛いと確信したリスさんとうさぎさんを購入することにした。

 (ジオ)

 ある日突然現れて、突然消えてしまった人。
 もしもイリヤが彼女と同じように、突然、目の前から消えてしまったら。

 そんな不吉な想像をして、ジオは頭を振った。

 (ジオ)

 あの人は。

 マリアは今頃、どこでどうしているのだろうか。


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